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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)2664号 判決

大阪府寝屋川市春日町一四の二三 熊野荘一七号

原告

森徳雄

大阪府東大阪市御厨一〇一三番地

被告

安田敏雄

横浜市中区山下町二二番地

被告

ジョンソン株式会社

右代表者代表取締役

ジェームズ・エム・シェパード

右訴訟代理人弁護士

渡部喬一

小林好則

仲村晋一

松尾憲治

近藤勝彦

大石雅寛

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告ジョンソン株式会社は商品名レインダッシュスーパーロングの販売をしてはならない。

二  被告ジョンソン株式会社と被告安田敏雄は、各自原告に対し金五〇〇万円を支払え。

三  被告ジョンソン株式会社と被告安田敏雄は、原告に慰籍料一二〇万円を支払え。

第二  当事者の主張

一  原告の主張

別紙(一)ないし(三)記載のとおり

二  被告安田敏雄(以下「被告安田」という。)の主張の要旨

1  被告安田は、昭和五二年六月初旬ころ、原告から、車輌のエアーワイパに関する考案について、実用新案登録出願を依頼された。被告安田は、原告の依頼内容を明細書及び図面に反映させて文書を作成し、この原稿を原告に見せて了解を得た上で、昭和五二年六月二一日に特許庁に対して実用新案登録出願手続を行った。右出願は、二度の拒絶理由通知を受けた上、最終的に実用新案登録第一五〇一六七七号として登録された(以下、右実用新案権を「本件実用新案権」という。)。

2  原告が訴状(別紙(一))に掲げている特許あるいは実用新案の登録番号又は公報番号は、本件実用新案権の登録出願手続における拒絶理由通知で特許庁審査官が引用した公知文献の番号、及び、特開昭五〇-五七二八八号公報に記載されている「艶出し撥水剤」のことを指すと考えられるが、前者はもとより、後者の特許権も出願公開日は昭和五〇年一二月一九日であるから、原告の主張は事実無根である。

3  被告安田は、被告ジョンソン株式会社(以下「被告ジョンソン」という。)とは何の関係もない。

4  仮に、被告安田の不法行為があったとしても、本件実用新案権の出願日から起算して二二年を経過しており、消滅時効が成立している。

5  よって、原告の請求は理由がない。

三  被告ジョンソンの主張

1  訴状請求原因欄記載の各事実(別紙(一))はいずれも不明確かつ特定不能であり、認否できない。

2  訴えの変更申立書記載の事実(別紙(二))のうち、被告ジョンソンが商品名レインダッシュスーパーロングを販売していることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

3  被告ジョンソンは、右商品につき、原告主張の木村勇はもとより、いかなる者ともライセンス契約等を締結していない。

第三  当裁判所の判断

一  原告の主張の内容は明確ではないが、訴状の請求の原因欄の記載(別紙(一))及び平成一一年五月六日付訴えの変更申立書の請求の原因(追加)欄の記載(別紙(二))並びに第一回口頭弁論における原告の陳述(別紙(三))を総合すると、概要、次のとおりであると善解できる。

1  原告は、昭和五二年三月ころ、特許権ないし実用新案権の登録出願手続を依頼する目的で、弁理士である被告安田に対し、

(一) 車輌のエアワイパーについてのアイディア

(二) ウインドウガラスに油状、ワックス状、油紙又は他の液状、固体状、グリス状のものを塗布することにより、ウインドウガラスに付着する雨・水等の水滴を粒状にして吹き飛ばし、ウインドウガラスに残さないようにしたアイディア

(三) 加熱装置を設置して、熱風をウインドウガラスに吹き出して凍結を防止するアイディア

を開示した。

2  しかし、被告安田は、1(一)の車輌のエアーワイパーのアイディアについてのみ実用新案登録出願(実願昭五二-八二一五五号)をし、残りの二つのアイディアについては出願をしなかった。

3  右の車輌のエアーワイパーについてのアイディアの出願は、

(一) 特公昭四七-四二四五一号(特許登録第六八七一六五号)

(二) 実開昭四九-七一九四三号(実用新案登録第一一二六九九七号)

(三) 実開昭五〇-六五一四二号(実用新案登録第一二〇五六〇六号)

を引用例として、拒絶理由通知が出されたが、最終的には実用新案登録第一五〇一六七七号として登録された。

4  被告安田は、依頼人の秘密を保持するという職務上の義務に違反して、右の出願しなかった1(二)記載の原告のアイディアを盗用し、第三者である木村勇の名義を用いて、「艶出し撥水剤」の名称で特許出願(特願昭五〇-一五七二二号)し、これが登録された。

5  被告安田は、被告ジョンソンとの間で、右の特許権について実施契約を締結し、被告ジョンソンは、右権利を実施して、商品名「レインダッシュ スーパーロング」として商品化して販売している。

被告安田は、右の実施契約により、年間数億円の利益を得ており、原告は同額の損害を被った。

6  また、被告らの右各行為により原告が被った精神的苦痛を金銭に換算すると、一二〇万円を下らない。

7  よって、原告は、被告ジョンソンに対し、商品名「レインダッシュ スーパーロング」の販売の差止めを求めるとともに、被告らに対し、損害賠償の内金として各自五〇〇万円及び慰籍料として一二〇万円の各支払いを求める。

二  後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  昭和五二年六月二一日、発明者及び出願人を原告、代理人を被告安田として、名称を「車輌のエアーワイパ」とする考案が実用新案登録出願され、昭和五六年三月三日及び昭和五七年六月八日に特許庁審査官から拒絶理由通知が発せられたものの、昭和五八年四月二六日には登録査定がされ、同年八月一〇日には実用新案登録第一五〇一六七七号として登録された。(乙第一ないし第三号証)

2  昭和四九年二月九日、木村勇を出願人として、発明の名称を「艶出し撥水剤」とする発明について特許出願がされ、これが昭和五〇年一二月一九日に特開昭五〇-一五七二八八号公報として公開された。(乙第四号証の三の二)

三  そこで、原告の主張を検討すると、本件記録を精査しても、原告が昭和五二年三月ころ被告安田に前記一1(二)記載のアイディアを開示し、そのアイディアについて特許又は実用新案の登録出願手続を依頼したと認めるに足りる証拠はないが、仮にこれが事実であったとしても、前記二で認定した各事実によれば、その時点では既に木村勇による特開昭五〇-一五七二八八号公報に記載された「艶出し撥水剤」の出願手続は行われていたのであるから、被告安田が原告のアイディアを盗用して、木村勇の名義で右特許の出願手続をすることが、時期的に不可能であることは明白である。

その他、被告安田が原告のアイディアを盗用したと認めるに足りる証拠はない。

四  よって、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないことは明らかであるから、主文のとおり判決する。

(平成一一年六月一五日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 渡部勇次 裁判官 水上周)

別紙(一)

請求の原因

一、民法七〇九条、特許法一〇三条、特許権利の侵害者、被告 安田敏雄が故意または過失で侵害したので、不法行為に当たり、相当額の損害賠償金の支払いをせよ

二、特許法一〇三条、被告 侵害者安田敏雄が侵害の行為により利益を得ているので、販売額の返還の支払いをせよ

三、特許法一〇二条二項、裁判所の鑑定人の鑑定の算定をせよ

四、被告 ジョンソン(株)は、原告と契約のやり直しをせよ。特許法一〇二条二項、算定された不正契約金及びパテント料と同額の金額を、原告に対し支払いをせよ

五、被告両名は原告に対し、精神的苦痛に対する慰謝料として百二十万円を支払え

六、特許法一〇五条、被告 ジョンソン(株)は、裁判所に、商品名レインダッシュ スーパーロングにかかる帳簿、伝票等、販売額の記載を特定する資料の提出をせよ

七、特許法一〇二条二項、特許法一〇三条二項、鑑定人は、被告ジョンソン(株)が提出した資料に基づき、撥水剤の特許の不正契約金と、商品名レインダッシユ スーパーロングの販売額の全ての算定を原告に新たにせよ

八、特許法二十九条一項、特許法五二条の撥水剤の特許の出願前に被告 安田敏夫に盗用されたものであります

九、昭和五十二年実用新案八二一五五車両のエアーワイパーに水玉粒状のヒント・アイデアが記載されておらず、被告 安田敏雄に横取りされ漏らし盗まれており、訴訟を申し立てるしだいであります

十、 昭和五十二年実用新案八二一五五車両のエアーワイパーもこの時すでに被告安田敏雄によって盗まれておりましたが、登録六八七一六五・登録一一二六九九七・登録一二〇五六〇六の三点のいずれかが特許庁で取り消し抹消して実用新案八二一五五を取り返して登録になり、現在原告 森徳雄が特許権者になっております

十一、原告の発案である水玉粒状のヒント・アイデアを 被告安田敏雄は盗み横領して原告 森徳雄の秘密を守る義務が有りながら、故意又は過失で漏らし盗んだのであり、昭五〇-一五七二八八艶出し撥水剤の特許の無効を求める

十二、 原告の考案、発案の車両のエアーワイパーとウィンドガラスに雨・水を粒状にして吹き飛ばし水滴をウインドガラスに残さないようにした点であり、油状、ワックス状、油紙又は他の液状、個体状、グリス状等をウインドガラスに設置し、これが証拠であります

十三、証人として投じ、車両のエアーワイパーが被告 安田敏雄に盗まれており、中島潤一先生に相談に行った時に水玉粒状のヒント・アイデア、油状、ワックス状等の説明をしております。中島潤一先生がよく知っておられますので証人になっていただきます

十四、被告 安田敏雄は真実を明らかにすべきであり、自ら弁理士の資格を取り消すべきであります

十五、被告 安田敏雄は原告 森徳雄の発案である水玉粒状のヒント・アイデア、油状、ワックス状、液状、個体状を盗み第三者に依頼して、第三者が特許権者になり被告 安田敏雄はいくらかの金銭を得ているのであります

十六、ウィンドガラスに凍結を防止するために加熱装置を設置して熱風をウィンドガラスに吹き出して凍結を防止するヒント・アイデアも被告 安田敏雄に出願前に横取りされ、盗まれております。原告の発案、考案である「エアーワイパー・水玉粒状・加熱装置」この三点を被告 安田敏雄に盗まれております

十七、抹消、取消しましたの書類を証拠書類として裁判所に提出をしたいのですが、

特公昭47-42451公報

実開昭49-71943公報

実開昭50-65142公報

のいずれかが抹消、取消ましたの書類が森徳雄に来ておりましたが、なくなっておりますので、再度特許庁に抹消した書類を求めましたが、特許庁内、内線2755の山田様がその書類を提出できないと言っておりますので、特許庁内審査官、大槻審査官と無効審判員様を、裁判所に出頭して頂き、抹消取消した書類の提出を求めて下さい

十八、被告ジョンソン(株)と木村勇間の、撥水剤の特許の契約金が二十億円と聞いておりますが、いくらで契約しているのかわかりません

十九、被告 安田敏雄が盗用していなければ、その証明をして立証すべきであります

別紙(二)

請求の原因(追加)

一、車両エアワイパー八二一五五、原告が特許の権利を持っている

二、特許法一〇五条、被告ジョンソン(株)は、特許侵害する商品名レインダッシュスーパーロングを販売している。被告安田敏雄、木村勇の特許の権利で、ジョンソン(株)との製品化をしている

三、何億円の利益をあげているので、とりあえず、この内金として、被告ジョンソン(株)と安田敏雄は、原告に対し五〇〇万円の支払いをせよ

別紙(三)

一 原告の本訴請求は、原告が被告安田敏雄に対して特許あるいは実用新案の出願のために開示した、ウィンドウガラスに油等の物質を塗布することにより水滴を粒状にして吹き飛ばすアイディアを盗用されたことに基づく。

二 原告が被告安田敏雄に対して右の出願を依頼した時期は、昭和五二年三月ころである。

三 被告安田敏雄は、原告のアイディアを盗用して木村勇の名義で特許出願をし、これが登録されている。

四 被告ジョンソン株式会社は、被告安田敏雄との契約に基づいて、右アイディアを実施した商品である商品名「レインダッシュ スーパーロング」を販売している。

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